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本照寺だより 抜粋

余命宣言あなたなら「死の受容と人生の意味」

「本照寺だより」平成20年2月号から

■平成19年12月、お檀家の男性が亡くなった。行年77歳、前年9月に肺ガンの宣告を受けていたが、手術・延命を拒否し、自宅での療養生活を送り、1年3カ月後の逝去だった。
「今さら痛い思いはごめんだ…」
厚木市内のホームセンターにて「どうした、だいぶやせたな」との知り合いからの問いかけに「そうなんだ、俺はガンだから…」と、答えていたという。

■また同年3月、歌手の鈴木ヒロミツが肝細胞ガンで亡くなった。行年60歳。
病院でその日のうちに「余命3カ月」の宣告を受け、延命治療を断り、妻と長男(20)の3人で自宅にて暮らす決意をした。
『余命3カ月のラブレター』との本が後に出版されるのだが、鈴木ヒロミツは死の恐怖と闘いながら、亡き父親のことをしきりに思い出すようになったと、述懐している。
入院中の父のために好物のクリームソーダを作ったこと…父が臨終の時、盛り場で飲み明かしていたこと…

■私は通夜で時々「いまわの際で『自分の人生に何の意味があったんだろう』などと思いつつ死ぬ人ほどつらく悲しい人はいないでしょう。自分の人生の意味やら価値やらをもし、自分自身で気づけないところが少しでもあるとしたら、ご遺族の方々が本人に代わり、『あなたの人生にはこれだけの意味や価値がありましたね』と、伝えて欲しい」と、訴えることがある。
恐らく、子供を持つ女性の多くは、我が子の存在が我が人生の大きな意味と価値とになるのだろう。更にその子が社会という中で「人様のお役に立っている」との実感ほど母親にとって、これ以上の悦びはないのではないか。
父親もまた、きっとそうなのだ…鈴木ヒロミツもまた、そうだったに違いない。

■しかし時代を遡ると、私たちの人生の価値は「地位・財産・名誉」などに求められることが多かったようだ。
だが、人の間に生きる人間としての人生の本当の価値は、実はそこに集約されるものではないことに、我々は少しづつ気付いてきたのだろう。
そう、私たちは時代の成長とともに「人様のお役に立つ」との思い、更にはその「お役に立つ命を繋いでゆく」というバトンほど尊いものはないということに。
このバトンは間違いなく「地位・財産・名誉」を超える価値となるはずであり、私たちの本当の人生は、実は自分以外のもののため、社会や人さまのために生き始めた時に始まるのではないか…
「いつの日か、またどこかで、きっと、おめにかかりましょう」、鈴木ヒロミツは、こう締めくくった。

本照寺住職 須藤 教裕